室内の空気と外気を交換することを換気といいます。換気の⽬的は 1) 外の空気を室内に取り⼊れ、2) 室内の空気を外に追い出すことで,3) 室内の空気中の汚染物質を排出・希釈することです。特に⼤量の換気を⾏うことによって夏場に建物を冷却したり、直接居住者が⾵を浴びて冷涼感を得る場合があり、これらを⽬的とした空気の⼊れ換えは、通⾵と呼ばれます。換気には⾃然換気とファンを⽤いた機械換気に分けられますが、通⾵は⾃然換気による 場合が⼀般的です。ただし、両者は現象としては同じであり、⽬的が違っていると⾔えます。
室内汚染物質には⼤きく、ガス状汚染物質(気体)と粒⼦状汚染物質(固体や液体)に分け られます。ガス状汚染物質には、⼆酸化炭素(CO2)、⼀酸化炭素(CO)、揮発性有機化合 物(VOCs)、窒素酸化物(NOX)、硫⻩酸化物(SOX)、ホルムアルデヒド(HCHO)、様々 な臭気などがあり、粒⼦状汚染物質には、浮遊粉塵、アスベスト、アレルゲン(ダニ、花粉、 真菌(カビ))等に加え細菌やウイルスも含まれます。ただし、細菌やウイルスの多くは粉 塵やミストと共に浮遊します。いくら透明で綺麗に⾒える空気でも、多くの粉塵を含んでい ます。10µm 以下の粉塵は⽬には⾒えませんが、それらの⼤きさの粒⼦が⼈の健康に悪影響 を与えることがあるのです。 3 図1 建築における空気汚染物質(⽂献3に筆者が加筆)
上に挙げた様々な室内空気中の汚染物質が⼈体に影響を及ぼさない濃度については、その 環境によって異なります。⼯場などの労働環境では許容濃度と呼ばれ、様々な汚染物質に関 して、⼀般の室内環境よりも⾼い濃度が法律で決められています。住宅や事務室などの空間 では、対象とされる物質は少ないですが、⽼⼈や⼦供も含めて 24 時間⽣活をする場所なの で、労働環境よりもかなり低い濃度となっています。表1に建築基準法や建築物衛⽣法で定 められている代表的な⼀般環境の室内環境基準を⽰します。ここで 1ppm とは 0.0001%を ⽰します。すなわち体積⽐で1の空気の中に 100 万分の 1 の汚染物質が含まれていること になります。 表1 室内環境の基準濃度(国⼟交通省,厚⽣労働省)(⽂献2) 物質名 基準濃度 ⼆酸化炭素 ⼀酸化炭素 浮遊粉塵(10μm 以下のもの) ホルムアルデヒド 1000ppm 10ppm 0.15mg/m3 0.1mg/m3 4
換気の⽅式は、窓などの開⼝部から外気を取り⼊れる⾃然換気とファン(送⾵機)などの機 械を利⽤した機械換気に分類されます。ここでは機械換気を中⼼に説明します。機械換気は さらに第⼀種換気⽅式、第⼆種換気⽅式、第三種換気⽅式に分類されます(図2)。第⼀種 換気は、給気側にも排気側にも送⾵機を⽤いる⽅式です。第⼆種換気は給気⼝のみに送⾵機 を⽤いる⽅式であり、第三種換気は排気⼝のみに送⾵機を⽤いる⽅式です。第⼀種換気は換 気量の確保が確実にでき、給気量、排気量を調整すれば室内の圧⼒を⾃由に設定できるので、 様々な換気の⽬的に適合させることができますが、送⾵機が⼆つ必要となるため設備費・運 転費は割⾼となります。第⼆種換気を⽤いると室内が正圧(外や周りの部屋より圧⼒が⾼い 状態)になるので、汚染空気やすき間からの外気の流⼊を防⽌でき、⼿術室などの⾼い空気 清浄度が要求される部屋に適しています。第⼆種換気は住宅に使われることはほとんどあ りません。⼀⽅、第三種換気は、室内が負圧(外や周りの部屋より圧⼒が低い状態)になる ので、隙間から外気、隣室空気が流⼊しますが、室内の空気が他に流出することを防ぐこと ができます。そのため、有害ガスや粉じん、病原菌などが室内で発⽣する室の換気に適して います。住宅では、臭気の発⽣するトイレ、蒸気の発⽣する浴室、燃焼廃ガスや臭気が発⽣ する台所などの換気に採⽤されています。また結核などの感染症患者のための病室(感染症 室)なども、廊下や隣室に病原菌を拡散させないよう陰圧に保つ必要があり、感染症の種類 によって第⼀種換気と第三種換気が使い分けられます。 図2 機械換気の分類(⽂献3) また換気の⽅式には、室内全体の空気を換気する全般換気と汚染物質の発⽣近くで、その汚 染物質が拡散しないうちに効果的に捕集して換気する局所換気という分類もあります(図 3)。台所のレンジの上にある換気扇や、⼯場等で排熱や汚染物質を発⽣する機器の周辺の みの換気等が、局所換気の代表例です。 5 図3 全般換気と局所換気
⼀般的には、換気の性能は換気量あるいは換気回数によって表現します。換気量とは1時間 に何⽴⽅メートルの空気を取り⼊れるかという数値で、[m3/h]という単位で表します(ここ で h は1時間(1hour)当たりという意味です)。換気回数は1時間にその部屋の容積の何 倍の空気を取り⼊れるかという指標で、換気量を室容積で除した値となります。例えば、換 気回数 0.5[回/h]というのは、1時間でその部屋の体積の半分の空気を取り⼊れることであ り、2回/h というのはその部屋の体積の2倍の空気量を取り⼊れることです。同じ換気量 でも、室容積によって換気回数は異なります。換気量は室内の汚染物質濃度の指標ですが、 換気回数は室内の汚染物質の濃度を低減させるスピードに対応した指標と⾔うことができ ます。それ以外の指標として室内の気流の状態と汚染物質の発⽣位置によって決まる換気 効率がありますが、これは問8で説明します。
空気中の汚染物質の濃度を基準濃度以下に保つために必要な換気量のことです。通常の居 室では、在室⼈から発⽣する⼆酸化炭素の濃度 1000ppm で決まることが多いです。
⼀般的な居室の換気量は建築基準法で定められています。⼈から発⽣する汚染物質を対象 として機械換気設備を設置する場合は、基本的に在室者1⼈あたり 20[m3/h]以上の換気量 が必要とされていますが、実際には室内の汚染物質の基準濃度に基づいて必要換気量が決 まる場合が多く あります。またそれ以外にも、ホルムアルデヒドの除去のため基本的な換 気回数が決められており、例えば 2003 年7⽉以降に建てられた住宅では通常 0.5[回/h]以 上となる機械換気設備の設置(いわゆる 24 時間換気設備)が義務づけられています。いず れにしても、室内で発⽣する空気汚染物質の濃度を⼗分に低減させるためのもので、きちん と機械換気設備が動いていれば窓を閉めていてもオフィスやレストラン等の商業空間にお6 いては最低在室者⼀⼈あたり 20 [m3/h]以上の換気量があり、2003 年7⽉以降に建てられ た住宅においては最低でも 0.5[回/h]以上の換気回数があることになります。 ⼀⽅、病室の場合はさらに厳しく外気による換気量が 2[回/h]以上となる機械換気設備の設 置が推奨されており(⽂献4)、実質上の設計基準となっています。 以上は機械換気の場合の例ですが、窓を開けて⾃然換気を⾏う場合は、窓の⼤きさや外部⾵ の強さにもよりますが、⼀般に換気量はさらに⼤きくなり、換気回数 10[回/h]以上になる こともめずらしくありません。⼩中学校の教室の換気については⽇本建築学会から指針が (⽂献5)出ていますので下記を参照ください。
http://news-sv.aij.or.jp/kankyo/s7/school_air_guide.pdf
換気の性能を表す指標に換気量や換気回数だけではなく換気効率という概念があります。 換気量や換気回数は量の概念ですが、換気効率は換気の効率を表すものです。同じ換気量で あっても隅々まで新鮮空気が⾏きわたらなければ換気効率が悪いことになります。たとえば給気⼝と排気⼝が近接している場合、せっかく⼊ってきた新鮮空気がすぐに排出されてしまいますので換気効率が悪くなります。これを専⾨⽤語でショートサーキットと呼んで います。⼀般に給気⼝と排気⼝が離れているほうが換気効率はよくなります(図4)。換気 効率は室内の気流の状態や給気⼝と排気⼝の位置関係、室内での汚染物質の発⽣位置など によって決まりますが、換気効率が悪い場合、いくら換気をしても換気の効果が出ないこと になりますので、注意が必要です。ただ⼀般的には、室内が⼗分に混合して⼀様な汚染物質 濃度の分布になるように換気設備は設計されています。 図4 換気効率(⽂献3) 7
換気を⾏う際に、空気の通る道筋のことです。⼈間が普段⽣活する居室にはできるだけ新鮮な空気を供給し、汚染物質の発⽣しやすい場所(トイレや浴室、台所等)はできるだけ⾵下 に設置することが望ましいと⾔えます。図5に住宅において換気空気が各室を通る経路のよい例と悪い例を⽰します。 図5 換気経路の良い例、悪い例(⽂献3)
必要換気量(問6)の確保だけではなく、⾼い換気効率(問8)と適切な換気経路(問9) を実現し、安定して必要な場所に必要な新鮮空気を供給するとともに、効率的に汚染物質を 排出することを計画換気とよびます。機械換気については、計画換気はしやすいわけですが、 建物の気密性の向上を背景に、⾃然換気についても、計画換気を⾏うことが推奨されています。
問7で説明したように、オフィスや商業空間でも住宅(2003 年7⽉以降建設)でも通常の 建物では機械換気設備が設置されており、最低限の換気量は確保されています。ただそのよ うな建物でも設計時の想定以上の⼈が在室すると換気の悪い空間となります。例えばもと もと50⼈を収容するとして換気設計された部屋に100⼈集まった場合などです。また 機械換気システムがきちんと働いていなかったり、給気⼝や排気⼝が閉じていたり、家具や 障害物等でふさがれていれば、換気の悪い空間となります。換気の悪い空間を避けるために は、必要以上に密集しないこと、機械換気システムがきちんと動いているか、換気経路が確8 保されているかどうかを確認することが重要です。また建築物とみなされない⼩型の倉庫 (奥⾏き 1m 以内、天井⾼ 1.4m以内)等は換気設備の設置義務はありませんが、これは本 来⼈間が中に⼊ることを想定していないことによります。
ここでは、代表的な事例として 24 時間機械換気設備が設置された⼾建て住宅と集合住宅 (マンション)について説明します。住宅の換気システムの⽅式は、上で述べた換気⽅式の 分類とは別に、⼤きく個別換気システムとセントラル換気システムに分類できます(図6)。 個別換気システムは各部屋につけた換気装置で効率的に常時換気を⾏うシステムです(図 6(1))。セントラル換気システムは天井裏等に換気ユニットを設置し、ダクトで家全体の換 気を⾏うシステムです(図6(2))。図6(3)の集合住宅の事例は、給気側は個別換気システ ムで、排気側をダクトでまとめるハイブリッド型となっています。もちろん集合住宅でもセ ントラル換気システムを導⼊している例はあります。いずれにせよ通常は、必要な部屋に新 鮮空気を給気し、トイレや浴室、台所など臭気や汚染物質が発⽣しやすい場所から排気する という換気経路(問9)を考慮するという計画換気がなされています。個別換気システムには問4で述べた第1種換気⽅式あるいは第3種換気⽅式を採⽤することが多く、第2種換 気を採⽤することはほとんどありません。セントラル換気システムでは、省エネルギー効果 のために換気ユニットに全熱交換ユニットを⽤いることが⼀般的です。この場合には給気 側・排気側双⽅にファンを設置するので、第⼀種換気⽅式となります。 また、先にも述べた通り、台所、浴室、便所などについては、別途排気のための第三種機械 換気設備が設けられています。これらの換気設備の換気量は 24 時間換気とは異なる基準で 決められています。 9 (1)⼾建て住宅(個別換気システム) (2)⼾建て住宅(セントラル換気システム) (3)集合住宅 図6 住宅における換気システム 10
問7で説明したように、オフィスやレストランなどの商業空間でも住宅(2003 年7⽉以降 建設)でも最低限の換気性能は確保されています。まずは機械換気設備がきちんと機能して いるかを確認してください。それでも⼼配な⽅には、適宜窓開けによる⾃然換気が有効です。 ⾃然換気は⼀般に機械換気よりも⼤きな換気量が期待できます。窓開けによる⾃然換気の 場合、⼀⾯の窓開けよりは、⼆⽅向の窓開けのほうが、換気量も換気効率も向上します。集 合住宅などは窓が⼀⽅向にしかない場合も多いと思いますが、そのような場合でもバルコ ニー側の窓を開き、廊下の扉を開いて、⽞関の扉を開けば(防犯上問題ない程度に)、⼤き な換気性能が期待できます。⼀⽅、窓の開かない⾼層オフィス等では、機械換気装置の⾵量 を増加することにより換気量を増やすことができます。換気に外調機(外気を加熱・冷却して室温で給気する装置)を⽤いている場合などでは、省エネルギーのために室内空気を再利⽤して、還気(リターンエア)させている場合もあるのですが、室内汚染物質を循環させず 外気をより多く取り⼊れるためには、還気を利⽤しない全量外気制御の⽅が望ましいと⾔ えます。これらについて在室者は制御できないので、それぞれのビル管理者にお問い合わせ 頂く必要があります。また最近では窓開けのできない建物でも、特別な外気取り⼊れ⼝を設 置して⾃然換気ができる建物も増えてきています。うまく⾃然換気を使いこなすことで、換 気量を増やし、きれいな空気を維持することができます。 また、いろいろな専⾨家が情報発信をしています。例えば、⼩中学校の窓開けに関しては下 記のページなどを参考にして下さい。 http://tkkankyo.eng.niigata-u.ac.jp/ventilation.pdf (2020 年 3 ⽉ 29 ⽇現在) 図 7 集合住宅における窓開け 11
内閣府では、次の症状の出た感染の疑いのある⼈は「帰国者・接触者相談センター」に相談 することになっています。(1)⾵邪の症状や 37.5℃以上の発熱が4⽇以上続いている。(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます。) (2)強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある。 ※ ⾼齢者や基礎疾患等のある⽅は、上の状態が2⽇程度続く場合 そこまではいかない⾵邪などの症状の時には、外出を控え、まずは近くの病院に電話で相談 してください。その場合、何らかの判断が出るまでは⾃宅待機となります。⾃宅でどのよう に療養すべきかについては、コロナウイルスであろうと他の感染性の病気(インフルエンザ やノロ等)であろうと、できることはそれほど変わりません。マスク等の着⽤により⾶沫⾶ 散を抑えること、同居者は⼿指衛⽣、よく触れる表⾯の消毒の徹底により⾶沫感染や接触感 染のリスクを低減すること、感染の疑いのある⼈と他の同居者の⽣活ゾーンを分けること が重要です。それ以外にも換気の観点から⾔えば、換気経路を考えてできるだけ⾵下(排気⼝の近く)の独⽴した部屋で療養するほうが、ウイルスを拡散させずリスクを低減させることに役⽴ちます。
⼩さな⾶沫や⾶沫核(⾶沫が⽔分を失って 空気中を漂う粒⼦)の拡散を防ぎ、
できるだけ早く室外に出すことが重要です。
コロナに対する予防策は努力の積み重ね。
100%の感染対策はありませんが、1つ1つの対策の精度を上げることによって、
感染リスクを抑制することができます。